2世帯住宅の「共有と分離」中庭と縁側で「結び目と切れ目」をつくる。

敷地・環境などの条件

宇部のアカデミータウンは自然環境を残しつつ開発を進めるユニークな町。 瀬戸内を望む南斜面の眺望豊かな町。起伏にに富んだ土地が故にアプローチのバリアフリー性の確保や基礎工事にかかる費用など、 現実的にはマイナス面も否めません。しかし、この土地の起伏や眺望、職場へのアクセスを考えあわせると、 それらのデメリットを突き抜け、終の暮らしを受けとめてくれる場所として魅力に満ちていました。

施主の要望

とにかく眺望を生かした設計であることはいうまでもありませんが、 親世帯との同居もあって冬暖かな住まい、夏は願わくば自然の通風で過ごせる住まいが求められました。 温熱環境づくりには、長谷川オフィスオリジナル「どまだんシステム」の採用を望まれました。 選択の理由として冬の暖かさばかりでなく「温熱環境のバリアフリー」というコンセプトに共感されました。 すなわち、住まい全体に極端な温度差を起こさないという」こと。温度差は結露を誘因し建物の寿命のみならず、 人の健康にとっても強く影響を及ぼすことは良く知られています。若夫婦ともに医療関係に従事されていることからも、

温熱環境は大きな関心事でした。

提案のポイント

土地は南北に緩やかな傾斜を持っていました。 北側にできるだけ寄せて、基礎にかかる費用を抑えるのは自然な解答です。しかしながら、 北側に水廻りを集め過ぎてしまうと、通風が損なわれます。2世帯住宅を外観上もそこはかとなく表出しながら、 そのかたちの切れ変わり部分を際立てる「中庭、坪庭」を南にも北にも設けることで、多くの採光面と「風の庭」が生まれました。 南の眺望は、海の風景ですが、そこここにちりばめた小さな庭が、部屋への移動に伴い、新たな世界への気分の切り変わりを促してくれます。 お風呂にも「風呂庭」。室内のそれぞれの場所は一体的につながりながらも、 その場所ごとに「外」空間との結びつきを大事にしながら「世界」づくりをしています。

南側の姿

左奥、平家が親世帯。南側に向かって屋根が上昇、光をつかまえる造形がなされる。

中庭を縁側で結ぶ

外空間としての縁側（ぬれ縁）はタイルの貼られたサンルームを貫通して、子世帯のスペースへと続く。途中に一息、中庭がある。

写真左 玄関 　　写真右　玄関から親世帯方向を見る

北側の玄関を明るく照らし出すスリガラスは、くつろぎの間の収納家具に飾る品物がシルエットとして浮かび上がる仕掛け。

玄関は温熱環境的に外に近いこともあり引戸で区画している。

南側の視線の彼方は瀬戸内。宇部の高台に位置する住宅。

写真右上

建具を全て閉ざした様子。この光の間は大きくふたつの機能を担っている。 ひとつは洗濯物干（室内干）のスペースとして。また、ぬれ縁の延長として、 屋内と屋外を結ぶ役割でもある。

写真右下

光の間の建具を全開した様子。冬はサンルームとして蓄熱も期待される。

くつろぎの間と食の間

杉の格子を薄化粧のように白い自然塗料で仕上げる。テレビ収納、パソコンコーナーが機能を伴って造形化されている。

たたみの間　中庭

写真上

板の間から畳の間を見る 　　　　

写真下右　たたみの間から中庭 　　　　　　　

親子の生活を緩やかに分離する中庭。ここに面するたたみの間の障子も一工夫し座った目線でのプライバシーを配慮した。

中庭を囲む父母ゾーン

祖父母それぞれの寝室は乳白色の柔らかな光を放つ建具で、区画と一体化を自由にしてある。 コンパクトながら多機能な空間づくりが求められた。

夫婦の間|共用空間|階段吹抜け　　

■写真 左｜ 夫婦の間

天井は南に向かって上昇し、光をつかまえる造形。天井付近には通風換気用のルーバー窓。換気窓は高い場所が効果的。クロゼットも通気スリットをとりデザイン化している。

■写真 右｜共用空間 階段吹抜け

トップライトから北の青い空を望む。子供と夫婦の間の中間には、本棚のあるコーナーをしつらえてある。

■子供の間、ロフト、デッキ

将来二部屋に分割ヲ見越して可動収納となっている。眺めのいいデッキは広々と6帖の大きさ。