デザイン、形、そして性能

私の事務所に設計依頼に訪れる方のそれまでの経緯をお聞きしますと、共通した経験をお持ちです。まず、住宅雑誌をさほど真剣にではなく購入、あるいは図書館などで見る。次に住宅展示場の見学。相当数を回っている方もいらっしゃる。そして、また、雑誌や本に戻っていろいろと思案。結果ある意味なにがなにやらわからなくなって、こんどは雑誌を建築家探しの観点から「読み」始める。それは、結局自分の家は他のどこにもなく自分達の中にあるとの「気付き」が既に芽生えているといえます。そして、若干デザインとしてこれはいいなというぐらいに写真は見るけれども、その建築家が何に深いこだわりを持っているかの観点から記事を読んで、共感した方に数人電話する。会ってみる。こんな経緯を踏んでいらっしゃる。もちろんデザインだけを何かで御覧になってお越しになる方もいないではないですが、割合としいては大変少ない。象徴的なエピソードとしてこのホームページ上の住まいの事例にもある船橋ハウス(http://www.interactive-concept.co.jp/s-jirei/moda.html)のオーナーはある雑誌で私どもの和風色の強い住まいを見て訪問される。しかしできあがった住まいの外観は、かなりモダーンで内部は北欧テイスト。すなわち、このお客さんにとっては、どの雑誌を見ても百花繚乱、形様々であるから、形ではなく、住まいの「性能」にこだわっている建築家を探しあて、自分達の想い(夫妻はオリエンと呼んでいた/オリエンテーションのこと)をぶつけ、デザインしていただこうという考えの持ち主でした。

 

 

 

土地を感じあう

間取りへの要望に先だって、設計してくれる方とともに「土地」に立って、太陽の大きな動きを感じあい、風や周囲の緑を感じあう。もうそこでスペースの在りようは浮かび上がりはじめます。それは「居間」とか「食堂」といった部屋の名称ではなく、冬のこの時間には、隣家の影がここまでのびるのか、といった事実の他、ここに座ると緑がきれいだな、ここには冬場ポカポカと日溜まりができそう、といった初原的な「場」のイメージです。紙の上の小さな世界に入る前に土地を感じあうのです。

要望は部屋名で伝えないほうがよい


さて、具体的に要望を伝える時期になりました。そこで建て主さんに申し上げることは、とにかく今現在お住まいの家で打ち合わせさせて欲しいとお願いします。しかも片付けないで下さいと。ありのままを見たいのです。きっと現在の住まいが気に入らないからこそ新しい住まいを考えているのでしょう。でも、気に入っているいないに関わらず、人はそれなりにたくましくその環境を「自分化」します。それがマンションでも、アパートでも戸建てでも、借家でも。そしてそこで暮らしいている姿を細かに聞きます。ここで混同してはいけないのは、これからの「新しい家」のことはひとまずおいておいて、今在るその部屋と家具いう制約のなかでの「いままで」のみを聞く。具体的に働いている日、お休みの日、朝から寝るまでの「行為や活動」を自己批評なしに、ありのまま聞きたい。私達設計家はみなさんと一緒に暮らしていませんから、住む方々のこれまでを十分共有しなければなりません。遠回りのようでいてこのプロセスで、住む方も気がつかなかった発見がきっとあります。
                  

部屋名はあとから浮かびあがる


さあ、そうした「今まで」そして「今」というものを具体的な行為や活動として共有して「これから」に結んでいきます。が、ここでも「居間は十畳」くらい欲しい、という表現で要望を伝えるのは好ましくありません。イメージがシュッとしぼんで伝わってしまうからです。よく言われる「部屋名」は白紙にしてしまいましょう。それではどのようにつたえるか。「部屋」に即して伝えるのではなく、生活の事実として、やはり「行為や活動」を中心につかむことをお薦めします。

 

いろんなレベルの生活のかたち
生き活きとした(生き生き活き活きの造語)暮らしにおける活動や行為、姿勢をつたえましょう。

以下が生活のかたちのつかまえ方の一例です。生活はばらばらではなく複合的ですから

これらの多様な組み合わせも考えられます。

だんらんのかたち
だんらんを楽しむ。ことさら日々意識しないでいる一家団欒、夫婦団欒の時間。自分にとって団欒を感じるときはどういう時なのかを見つめてみましょう。たとえば「家族そろっての夕食や休日のランチを介しての団欒がかけがえがない」などなど。

くつろぎのかたち
ごろ寝スタイルが一番くつろぐのか、ソファで寝転ぶのがくつろぐのか。とにかく他人には見せられないかっこうで、誰しもだらだら疲れたからだをくつろがせ癒します。その姿勢は子供と大人では違うし高齢者もちがう。もちろん夫婦でも違います。ソファなどの道具を用いてくつろぐこともありましょう。その道具そのものも自分のくつろぎにフィットしているか検証します。場所としては、それが寝室であるのかもしれないしお風呂であることも。たとえば、「湯につかりながら太陽のひかりを浴びながらくつろぐ」とか「晩酌をごろ寝をしながらテレビを見てくつろぐ、、」など。「部屋名」に結びつけずに、くつろぎの姿勢や時間などを掘り下げることで「あなたのくつろぎ空間」が孵化しはじめます。

食のかたち
朝の食事はとにかくスピーディーにこなさねばならない方、作りながら食べるがこれまでのスタイル、という方も。キッチンは外の空間にも中の空間にも連続していた方がベターなライフスタイルもありましょう。例えば「テレビという装置を軽快に壁に吊るしながら、それはウェブサイトにも開かれていて、それを見ながらクッキング」など。作る、食べるを中心に掘り下げます。

就寝のかたち
子供が小さくて早く寝る、けれど御主人は真夜中に帰宅。寝る前にベッドで本を読む。しかしとなりにいる人には眩しいだろうから我慢。我慢するしないはさておき、これからの寝室のありかたはベッド二つのウォークインクロゼット付きという定番スタイルではないはず。例えば「夫婦すれぞれのデスクコーナーがあり、寝転びながらシアターを見る、そして、夫婦別寝にもなったり、、、」これまでの問題点を洗い出すことは、新しい寝室の在り方が生活の中に潜んでいることに気がつきます。 

育みのかたち
子供の部屋にダイレクトに現れますが、そればかりでなく住まい全体に「子供をどのように育むか」はデザイン化できます。また、ペット、植物、命あるものを育む視点で見つめ直します。

おもてなしのかたち
昔は客間とよばれていましたが、宿泊客や気のおけない仲間とのコミュニケーションの在り方、そしてその頻度なども客観的に見つめます。例えば「観葉植物が大好き、これを育み、その植物が私の作品、その作品を見せることが私のおもてなしの気持ち、だから土足のまま入れる土間リビングがもてなし空間だ、、、」など。

装いのかたち
衣服を着替える行為もみつめれば一筋縄にはいきません。勤めから帰る、玄関で靴を脱ぎ、さて自分の部屋に入る、部屋着に着替える。その脱いだズボン、もちろん即クリーニングではないから、吊るす。かといって少し湿っているのでクロゼットにはいれられないので鴨居なり長押/なげし/あるかどうかわかりませんが/に一時吊るす。こんな日常的な着替えに伴う一連の行為をみつめると、その問題と問題解決が見えてきます。

カルテをつくる


すまいづくりの方向付けを行うために、それぞれのかたがたがそれぞれなりに要望を列挙しますが、先述したように、できればイメージが広がる方向に向かいたい。それにはあまり「物」や「部屋名」に即さないこと、と記しました。カルテの一例を掲載しておきました。皆さんなりにアレンジするもよし、活用いただければと思います。根底にはれまでの項で述べた生活の「いままで」の事実ををすくいあげ新たな「これから」をあぶりだすメモのようなものです。

生活に根差さない、見た目のあこがれや形からはいるのではなく、

自信をもってみなさんの生活から創っていく。そこへ新たなイメージを重ねていく。

だれのためでもない、自分達の生活のために。こんな感じの「居間」などと写真を提示する前に、

まず生活の「いままで」をよくすくいとる。そして「行為や活動や想い」を伝える。

その後「これから」を伝える。すると、きちんとこれまでの生活に連続しながらも、

思いも寄らなかった部屋、住まいの在り方が浮かびあがる。

それがなぜか、どこにもなく「新しい」のです。